Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

      “この夏の目標は?”
 


それはそれは長期の休暇だから、
せっかく身についた学習が雲散霧消しかねぬし、
勉強する、机に向かうという習慣までもが
リセットされかねぬのを恐れてのこと。
少しずつでいいから、涼しいうちにお家で勉強なさいねと、
普通は終業式の日前後に、
先生がたから子供たちへ どっさり持たされるのが宿題で。
あまりに多いのと、ついつい遊びほうけた代償として、
学校が始まるってのに片付いてないと焦る図が、
サザエさんなど、子供向けのアニメや漫画の
風物詩的ネタとして鉄板のそれでもあったりし、

 「子供ってのは性懲りもねぇから。」

その性懲りもない代々の猛者の内の 間違いなく一人だったろう大人が、
全くの他人事というお顔で“頑張れよ”と笑うのもお約束なものの、

 「そうは言っても、よ。」

あまりに暑いのは学校でなくたって、ご家庭だって同じことなんだし。
これほど長いお休みは、子供たちへの格別なご褒美、ってだけじゃなく、
それを当て込む各業界からも、書き入れどきだとばかり、
家族旅行なら○○へとか、三世代で楽しむ◇◇ランドとか、
各種オプションも天こ盛りの、様々な企画が目白押しだし。
それでなくとも、真ん中には国民的な休暇扱い、
毎年恒例、真夏の人民大移動、別名“帰省”つきの“お盆”もあってのこと。
海水浴だキャンプだ、
昆虫採集だ、花火だ肝試しだと、夏ならではの楽しみも数え切れずだしと来て。

 「結局放ったらかしになっちゃって、
  最終日にも片付かなくて、
  ケツに火がついてもしょうがねぇってもんだよな。」

なに?このドリルとか何冊もあんの、信じらんねぇ。
大体サ、これ全部、提出した後で先生方は眸を通すのかなぁ。
大方埋まってたらよしって人、多いんじゃね?と、
見るからに新しい、エッジ立ちまくりの問題集やらドリルやらを、
持参したデイバッグから、
匂いの強すぎる干物でも扱うような、
いかにもなしかめっ面で取り出した子、悪魔軍曹様であり。

 「まさか俺たちに分担させよって腹じゃなかろうな。」
 「そんな意味のねぇことはしねぇよ。」

小学生の算数は九九までしか思い出せねぇ連中を
アテにしたってしょうがなかろと、にべもない坊ちゃんへ、

 「すんなスパッと言われてもなぁ。」

それはそれで却って不服か、
子供カテゴリから見りゃあ 十分に“いい大人世代”の大学生たちから、
逆の不平がこぼれてるのが、何だか笑える光景だったりするのだが。

 そう、ここは賊学大学アメフト部の専用グラウンド。

ここ数年の酷暑傾向もあってのこと、
夏場のスポーツは特に健康管理に注意をというお達しが出ちゃあいるが、
それでも…ついのこととて、
多く走ったものが勝利を掴む的な信仰もなかなか抜けぬか、
それとも、それこそ夏休みの宿題よろしく、
継続は力なりしか効果がない、困った“鳥頭”が多いのでか。
唯一の自慢である体力に、持久力をつける好機ぞと、
ちょみっとばかり無理をさせる方針が
なかなか無くならないのも困った現状であり。

 “まあ、ウチの馬鹿たれどもには、丁度いい躾けも兼ねてんだがな。”

野放しにしとくと、その体力を持て余し、
繁華街だの高速の端っこなんぞで しょむないことをしでかしかねぬ。
熱中症で倒れること以上にそっちの方が案じられる顔触れなのでと、
その昔、参勤交代で各地の大名の財力を削った幕府のごとく、
体力減らしやガス抜きも兼ねてのこと、
レギュラーたちに毎日練習に出てくるようにと
逆らうことへの選択なしと義務づけしているチームだったりするそうで。

 “そういう言い方すっと、
  何か物凄げえカリキュラム構えた更生集団みたいに聞こえるんだがな。”

でも、不良少年だらけだった面子が、
ここ数年は補導歴なしの身となってるのも事実でしょうが、キャプテンさん。
勿論のこと、そもそもそういう方針から始まった訳じゃあなくて、
振り返ればそういう効果を出しているという順番なのであり。
そして、その効果の大きな源となっているのが、

 「ここで片づけるつもりなんか?」
 「まあな。
  でないと俺、こんなん あっと言う間に終わらせちまうからよ。」

どこから見たって小学生で、
しかも もしかすると標準体型よりも細くて小柄な上、
モデル業のアルバイトがこなせるような
繊細美麗な風貌をした男の子。
彼が、小生意気な口調のまんま合流するようになってから…の効果でもあるから、
そこがまた なお不思議。
今時は一人っ子が多いから、
こういう構う相手がいるとお兄さん意識を新たに刺激されるのかな、
いやいや、無邪気なままで肩張らずに振る舞えるからじゃないかなぞと、
それなりの言い分を持ってくる分析研究者もいるかも知れぬが、

 “そんな大層なこっちゃねぇよな。”

昔ながらの上下関係、
強い相手には服従せよ…が脈々と生きてるだけなんすけどもねと。
こそり応じる声があるだろう、単純な理屈なんですけれどもね。(苦笑)
今も、もしも本気で手を挙げられたら、
むくつけき大男が相手だ、
どんなに我の強い子だって怯むに違いない構図だというに。
そんな意地悪なんてされなかろうという信頼関係があるからか、
金髪頭のかわいらしい坊やは、
ベンチへ並べた問題集をちょちょんとつつくと、

 「日に日に少しづつってのは間違ってなくてサ、
  あんまり早いうちに片付けっちまうと、
  新学期が始まったとき
  あれこれすっぽ抜けてることって結構あるんだよな。」

夏休みの宿題の片付け方への一席ぶっておいでな様子。

 「ルイだって、
  小学校時代の担任の先生の名前、フルで覚えてっか?」
 「う…。」

いやいや覚えてんぞ、○○◇◇◇っつってだなと、
何とか絞り出したところが、

 「それってイロイロ世話かけたからじゃね?」
 「うう…。」

そういやルイって小学生時代って体弱かったって言ってたもんな、
何かと連絡があったりも多かったんじゃね?と、
さすがは“ああ言えばこう言う”のエキスパートさんで、
外れた例えばも“やや当たり”へ持ってくところが半端ない。

  そう、小さき者へは手を挙げない連中だという信頼関係があっての
  対等ぶりこや威張りぶりなんかじゃあなくて。
  彼らの頭目、主将様さえ黙らせる頭と舌先の切れとそれから、

 「セナは、この夏 25m泳げるようになるのが目標だって言ってたが。」

仲のいいお友達の、そちらはいかにも子供らしい目標を例に挙げてから、

 「俺の目標は、
  ここにいる全員のラップタイムを1秒縮めることだ。」

えっへんという勢いで むんっと胸を張ったものの、
一番小さな存在ゆえに、
輪になって集まってたうちの、後方の眸には届かんのが不公平と思ったか。
ひょいとベンチの上へ飛び乗って、
あらためて胸を張り直すお茶目さを見せたにもかかわらず、

 「ぐぇ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」
 「嘘だろ、それってどうやって、」
 「馬鹿、わざわざ訊く奴があるかっ。」

どよもしが あわわという焦りへ塗り変わり、
知りたい?という悪魔の微笑みに ぞぞぉっと震え上がる皆様を、
少し離れた別のベンチから眺めやる、主将と軍曹を補佐する双璧、
ツンさんと銀さんが、

 「おお、早くも肝試しみたいだぞ。」
 「いいんじゃね、今日も暑くなるっていうしよ。」

わざとらしく額へ小手をかざして、そんな呑気なお言いようをしてなさる。
余裕なのか諦念からかは神のみぞ知るではあったれど…


  ああ、今年も始まったねぇ、賊学の夏。





  こんな自由研究を提出されても、
  姉崎せんせえが困るだけだと思うのですが…。(笑)






     〜Fine〜  13.07.23.


  *意外や意外と言いますか、
   もうあんまりいろいろ覚え照られないよねと言ってたはずが
   新しいウェブツール用のIDとかパスワードとか、
   7桁8桁のでも案外覚えてられる自分にびっくりです。
   現金なだけですかね、これ。(笑)

  *それはともかく。
   こちらの皆様にも始まりました、今年の夏が。
   何かもう二学期始まっても不思議じゃないぞというくらい、
   暑さも大夕立ちもさんざん体験しましたけど。
   蚊にも食われましたし、汗みどろの中、洗濯物を干したり取り込んだり、
   エジプトでピラミッド造った皆様はこんなもんじゃなかったぞと、
   どえらいものを引き合いに出して耐えております次第。

    皆っ、頑張ろうねっ!

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